ミニマム コラム

執着せず。最低限のモノで。日常の共感。

蚊取り線香とツワブキと

つわぶき

部屋の中なのにやけに蚊が多い。夏が終わって行き場を失いかけている蚊が最後の力を振り絞ってその存在感を主張しているのだろうか?1匹みつけてパチンと殺すと、新たに3匹の蚊が飛んでいるのを発見する。なんなんだよ、殺しても殺してもキリがない。

  

蚊は昼も夜もおかまいなしに血を吸いにくる。それは、僕が寝ている間にも。

 

・・・痒い。痒くて目が覚める。どこだ、僕の天敵はどこだ。寝ぼけ眼で蚊を探すが、そう簡単に見つかるはずもない。渦巻状になった蚊取り線香の一部をへし折り、ライターで火をつける。このままカーテンに引火したら、この家、簡単に燃えちゃうんだろうな。

 

父と母が何十年ローンかで建てた家。リフォーム半分、新築半分という奇妙な家。ローンが払い終わっててよかった。ガンが見つかった後、母はそう言っていた。

 

蚊取り線香の煙がユラユラとゆれる。去年もこの季節に蚊取り線香焚いてたっけ?昨日の夕食の内容を覚えてないくらいだから、去年の今頃、蚊取り線香を焚いていたなんて覚えているはずもない。蚊取り線香を持って部屋を一周する。どこに潜んでいるかわからない蚊。この煙でくたばってしまえ。

 

朝、目が覚める。時計を見ると、まだ5時前。指の間が痒い。やられた。きっと天敵は蚊取り線香の煙の隙間を縫うようにして飛び回り、再び僕に近付いてきたのだ。

 

外はまだ真っ暗。奇妙な鳴き声が聞こえる?なんだろう?その鳴き声からは生物を想像することができない。人間に見つかる可能性が最も少ない時間に、人間にまだ名前を付けられたこともない生物が動き回っているのかもしれない。夜中じゅうカーテンの隙間から僕が寝ている姿をのぞき見していたのかもしれない。見たければ勝手に見ていればいいさ。夜中に小さな蚊と格闘している人間の男の姿を見てほくそ笑んでいればいいさ。

 

読書

 

すっかり目が冴えた僕は借りてきた本を読むことにした。

 

昨日の続き、しおりを挟んだページをそっと開ける。物語の世界に一瞬にして吸い込まれる。そこは都心から離れたアパートの一室。久しぶりに帰省した娘。ずいぶんと前に夫を亡くし一人暮らしをしている母。娘は同居をしようと提案し、母は一人暮らしのほうが気楽だからと遠慮する。母と娘のよくある切ない物語。僕はその物語を空の上から眺める。

 

・・・しらじらと夜が明けてきた。時計を見ると6時半。そろそろ仕事に行く準備をしなくては。

 

カーテンを開ける。庭を見るとツワブキの黄色い花が所々に咲いているのが見える。母はツワブキが嫌いだったと弟から聞かされたことがある。そうだったんだ。母さんはツワブキが嫌いだったんだ。

 

僕はこれから先、物語のように親と同居をするとかしないとか、親の介護が大変だとかそんな苦労をすることができないことを少し残念に思う。

 

朝ごはん食べて会社に行くとするか。