ミニマム コラム

執着せず。最低限のモノで。日常の共感。

不審物を発見した僕は・・・

新幹線

「あれ?なにかある。」

 

新幹線で予約した僕の席にジュースらしき缶が転がっている。ったく、ゴミくらい自分で捨てろよ。と思い手にした瞬間、、、いくつもの場面が走馬灯のように僕の頭を駆け巡る。わけではなく、中身が入っているみたいなのだ。このままゴミ箱に捨てるわけにもいなかい。かといって、わざわざ車掌さんに届けるようなものでもない。こういうときはどうしたらいいのだろう。

 

とりあえず僕はこの席に座らなければいけないので、それを空いている隣の席にそっと置いた。そして僕は、その缶をしばらく見つめた。これは忘れ物なのだろうか。失くした人は今頃120円の缶ジュースをなくしたがために落ち込んでいるのだろうか。それとも買ったはいいが飲む気がなくなってその場に放置したのだろうか。

 

そもそもこれは本当にジュースなのだろうか。なにかの罠か?不審物か?

 

「車内で不審物を発見した場合、車掌までご連絡下さい。」

 

それに該当するモノが僕の横に存在しているのではないだろうか。缶のフタはキャップ式になっている。そのキャップを開けた形跡は見当たらない。だけど、キャップを開けなくても中身を入れ替えることはできる。缶の横からキリなどで穴を開ければ簡単だ。できれば缶の横のイラストが描かれているあたりがいい。模様に紛れて穴の存在をわかりにくくすることができるからだ。中身を入れ替え、液漏れしないように封をする。あとはそれを新幹線の席にそっと置くだけだ。

 

「あれ?キャップ空いてないな。」

 

未開封だからといって安心して飲んでしまう人間もいるかもしれない。子どもであればその可能性はじゅうぶんある。そして、そのキャップをぐいと回した瞬間、あたりに異様な臭いが漂う。目など開けてはいられない。息をすることもできない。むせ返る人々、咳込む人々。20年前の地下鉄で起きたあの事件を思い出し、人々はパニックに陥る。逃げ惑う人々。できるだけ遠くの車両に逃げようと走る。われ先にと急いだ結果、人々は将棋倒しになる。泣き叫ぶ子ども。恐怖に支配されたカップル。しあわせな家族旅行が一瞬にして失われる。

 

新幹線の電光掲示板に流れる緊急速報。そんなことはわかっているんだ。今まさにこの車両で事件は起きているんだ。緊急停止した車両のドアが開けられることはない。逃げ場所がない。どうにもならない現状。僕は助かりたい。僕だけは助かりたい。どうしたらいいんだ・・・。

 

未開封の缶ジュースを見て僕はそんなことを考えたのだが、まあ、単なる忘れ物だよね、きっと。