ミニマム コラム

執着せず。最低限のモノで。日常の共感。

本震翌日の博多座にて

博多座

今週末は九州にいた。熊本地震の本震の翌日。僕は博多座でスーパー歌舞伎セカンド「ワンピース」を観ることにしていた。「博多でも多少は揺れるだろうけど、まあ、大丈夫だろう。」不安ながら、そう考えた。新幹線は平常通りの運行だろうか?調べてみると、博多までは運行しているが、それから先は運行の目処はたっていないらしい。その影響もあってか、劇場内はチケット完売にも関わらず空席が目立っていた。

 

開演に先立ち、猿之助からご挨拶があった。今回の地震に関する件だ。

 

「このような大きな震災が起きたときに笑いあり、涙あり、ギャグありの芝居をしていていいのだろうか。悩んだ末に予定通り公演を行うことにした。我々にできることは芝居をすることだけだから」

 

皮肉なことに市川右近演じる白ヒゲは地震を起こすことを得意技としている。実際になんどか劇場全体が揺れるような演出もあった。あの演出を今更変更するのは困難だろうし、それをしたからといって誰も不謹慎だとは思うまい。自粛という名のもとに暗いムードに包まれる必要はないと思う。だからといってわざわざ馬鹿騒ぎすることもない。要はそこに「思う気持ち」があるかどうか。

 

3.11に続き、今回も場内アナウンスで義援金の呼びかけを行っていた。しかも、幕間に役者が募金箱を持って客席をまわるという。それも気持ちがあるからできることだ。募金箱を机の上にポンと置くよりも余程効果があるし、なにより被災地の助けになると考えたのであろう。

 

僕が見かけたのは、中村隼人、市川春猿、市川笑也の御三方。意外と客は冷静で、キャーキャーいっているのは、ほんの一部の若い女性のみ。歌舞伎俳優なんて余程のご贔屓じゃないと興味ないよなぁ。今回はワンピースファンも多かったことだろうし。

 

僕は根っからのおもだか贔屓だ。ふと気配を感じ、後ろを振り返ると、笑也さんが!あの三代目猿之助のヒロイン役を数多く演じていた笑也さんが!僕はそそくさと財布を出そうとしていると、その仕草に気づいてくれて、僕の顔をじっと見ている。あの笑也さんが!そして、義援金をそっと入れる。僕の目をじっと見つめ、「ありがとうございます。」と。あの笑也さんが!ちょっとしつこいね。握手もしてもらった。女形の格好をしてるけど、握ったその手は男の手だ。当たり前だけどね。

 

震災をきっかけにこんな経験をさせてもらったのは皮肉な話ではある。喜んではいけないのだろうけど、おもだか贔屓の僕としては、思い出深い一日となった。震災のためにあの会場に足を運べなかった人たちは多くいた。残念だったろうと思う。それに比べて、僕は必要以上にいい思いをしたのだから、僕にできることはもう少しさせていただきたいと思う。