ミニマム コラム

執着せず。最低限のモノで。日常の共感。

暗闇で弄られるデジャヴ

ムービー

映画を見に行った。その映画館は古めかしいというか味があるというかそんな感じの映画館。だからかどうかは知らないが、観客も味がある人が多いわけで。僕もその中のひとり。その映画館のロビーは直射日光が差し込み非常に明るい。だから暗い劇場内に入ると目がくらむ。

 

この映画館は今時珍しい自由席。僕は最後列が好みなのだが、すでに半分くらいは埋まっていたので、最後列から二列目の席の一番右側に座った。劇場入口は席の後ろ側にあるので、後方からお客さんが入ってくる形になる。五分もしないうちに予告編がはじまり劇場内は暗くなる。その直後くらいに年配のふたり組が入ってきた。ご夫婦だろうか?僕の席の横に立ってなにか言っている。

 

「この列の真ん中が空いているから、そこに座りましょう」

 

しかし動こうとはしない。僕が邪魔で通れないということなのだろうか。「明るくなってからね」と女性は話をしている。今から本編が始まるのだから、もう明るくはならないと思うよ?それに気がついたのか移動しようとする二人。スッと移動してくれればいいのだが、男性が僕の目の前でなにやらしきりに手を動かしている。その手は宙を切ったかと思うと、僕のカバンを弄り始めた。なにしやがんだ、このジジイ。なおも僕に触れようとする。必死に逃げる僕。

 

「うわっ、誰かいる」

 

僕は顔を触られそうになったので、その手をさっと払いのけた。どうやら暗闇に目が慣れていないようなのだ。二人が入ってきて随分と時間が経っていると思うんだけどね。それで諦めたかと思いきや、数分の時間をおいて、また奥の席に移動しようとする。そして僕に触れてくる。いや、だからさ、僕はここに座っているんだよ。それとも僕は透明な存在にでもなったか。今度は女性が先に奥へ移動する作戦に変えたようだ。どうらや女性の視界は良好なよう。「ほら早く来なさい」男性はどうも要領を得ない。すったもんだしながら目的の席にたどり着く。素直に別の席に座ればいいのに。

 

そして数分後。今度はご家族だろうか。四人組が僕の横に佇んでいる。その中の年配の男性がまたもや僕の目の前で宙を切る。

 

「うわっ、人がいた」

 

デジャヴ。なんで二度も俺のとこやねん。思わず大阪弁になる。家族は「へへへ」と笑っている。謝れよ。この家族はさっさと前の席の方に移動した。本編が始まる。やれやれだ。

 

それから10分くらい経ったころだろうか。劇場後ろの扉が開いた。そしてまたもや僕の横で立ち止まる。今度は恰幅のいい女性だ。デジャヴ再来。僕の目の前で手をばたつかせる女性。必死に避ける僕。いつまで経ってもやめようとしない。

 

「ひぃぃぃ、誰かいる」

 

叫びたいのはこっちさ。てか上映中だから静かにしなさいよ。そしてヨロヨロしながら前の方へ移動する女性。席についたかと思うと五分も経たないうちに席を立ち上がり移動し始める。まだ暗闇に目が慣れないのだろうか、フラフラしている。まっすぐあるけばいいものの左に方向転換する。そっちは壁だ。ドン!と派手な音を立て壁にぶつかる。これぞ、壁ドン。顔面をぶつけたのだろうか。鼻を押さえている。よろめきながら後方に移動する女性。ドタンバタンと何度も壁にぶつかる。コントかよ。しかし劇場を出るわけでもなく再び前方に移動する女性。その間も壁にぶつかる。もうね、笑うしかない。映画よりよほど面白い。

 

何十人もいる館内でなんで僕だけがこんな目にあうんだろうと考えた。きっと僕は選ばれしものなのだ。でも、できれば次からは僕を選ばないで欲しい。