ミニマム コラム

執着せず。最低限のモノで。日常の共感。

セミの声を聞くたびに目に浮かぶのは

網戸にセミ

セミって鳴くよね、夏になったら。舗装されていない地面があって、木が二、三本生えていたら、間違いなくセミは鳴いている。うちは山の中か川の中かって問われれば、山の中だから沢山セミが鳴く。それはもう蟬時雨。集中豪雨のように降り注ぐ。セミの声を聞くたびに九十九里浜を思い出していたら、僕は九十九里浜の波に飲み込まれて溺れてしまう。

 

異常にうるさかったんだよね、セミが。まるで耳元で鳴いてるみたい。ふと窓の外を見ると網戸にとまって懸命に鳴いていた。どうりでうるさいわけだ。ようやく地面の中から出てきて、青空の素晴らしさに感動してその感動を皆に伝えたい気持ちは十分にわかったから、そんなに鳴くな。彼を追い払うこともできたんだけどさ、それもなんかかわいそうでね。僕はもうすぐしたら仕事に出かけるから、まあいいや好きにすればいいと思ってそのままにしてやった。優しいよな、僕って。子どもの頃は網持って彼らを捕獲するのに懸命だったけどな。

 

セミといえば思い出す話がある。セミというのはご存知の通り長い間を土の中で過ごす。その間、耐え難きを耐え忍び難きを忍んでいる。そうして何年目かの夏の晴れた日の夕方に人目を偲ぶように地上に現れ、自らの力で羽ばたいていく。

 

地面に埋まっている水道メーターの蓋を開けたときのことだ。そこに孵化していない一匹のセミが横たわっていた。すでに息絶えている。長い間の土中生活を終え、地上に出たと思ったら、そこは水道メーターの蓋の下。彼は地上に出ることができなかったのだ。無念だっただろうよ。ようやく陽の目を浴びることができると思ったら、そこは闇の中。彼は闇から抜け出すことができずにその一生を終えたんだもの。

 

セミの抜け殻

 

僕の足元では、日々さまざま戦いが起きているのだと思う。僕はそれに気がついていないだけ。気にしたことすらない。そうそう、先日僕は人生二度目のモグラを見かけた。最初はそこになにがいるのか分からなかった。黒い毛の塊がモゴモゴと動いているのだ。僕の視界からはあっという間に消えたけど、あれは間違いなくモグラだったと思う。そんなモグラもセミの幼虫にとっては巨大な敵だね。

 

そんな戦いをかいくぐって晴れて彼らは大空へ羽ばたく。僕は幼い頃に一度だけセミが孵化する場面に遭遇したことがある。脱皮直後のセミは驚くほどに白く、それは透明と表現した方がいいほどで、とてもキレイな存在だった。でも美しさはほんの一瞬で失われ、あっという間に茶色く色づいた。彼は僕たちに捕まらないようにせっせと木の上の方に歩いていった。美しさはほんの一瞬。染まらない間だけだ。