ミニマム コラム

執着せず。最低限のモノで。日常の共感。

小さきものの世界の物語

キノコ

うちの裏にキノコが生えている。そのキノコを見るたびに小さな体になってそのキノコの家に住んでみたいと思う。キノコの傘は雨の凌ぐのにちょうどよさそうだし、真夏の直射日光もふせいでくれそう。夜はその傘の上に登り、そこをベッドにして寝る。傘の裏っ側のヒダの部分をベッドかわりにして寝たほうが気持ちよさそうだけどキノコを引っこ抜くわけにもいかない。僕が住む場所がなくなってしまうからね。

 

朝、目が覚めてお腹が空いたらキノコを少しだけかじる。僕は人間のように大きくないから少しだけかじればお腹いっぱいになる。次の日の朝までにはかじった部分が再生しているので、僕は食べることには困らない。人間は食べるために働く。家に住むにもお金がかかるから働く。僕はこのキノコさえあれば住む場所にも食べるものにも困らない。

 

きのこ

 

キノコの天敵はアカテガニだ。アカテガニもキノコもジメッと湿気の多いところを好む。だけども両者は共存できない。ただただジッとしているしかないキノコはアカテガニに食べられてしまう。そんなアカテガニから僕はキノコを守ってあげているのだ。僕とキノコは共存共栄。いい関係だ。

 

今日もキノコの傘の上で昼寝をしてると、なにやら不穏な空気を感じた。アカテガニがこちらをじっと見ている。隙あらばキノコを食べようとしているのだろう。

 

 「キミはどうしてそのキノコを守ろうとするんだ?」

 

不意にアカテガニが尋ねてくる。「僕たちは共存共栄の関係だからね」と答えると彼は「ふーん」と気のない返事をする。共存共栄の意味がわかっていないらしい。わからなければ、その意味を聞けばいいのに、どうやら興味はないようだ。

 

「俺はそのキノコを食べたいんだ」

 

「ダメだ、僕にはこのキノコが必要なんだ」

 

アカテガニはそのキノコにこだわることはないだろうという。君こそこのキノコにこだわることはないだろうと伝えると「それもそうだな」といいながら僕らに近づいてくる。力ずくで奪い取るつもりだ。

 

「僕はね、人が持っているものが無性に欲しくなるんだ」

 

アカテガニ

 

ニヤニヤしながら両手の大きなハサミを広げ威嚇してくる。その時だった。人間の足音が聞こえてくる。誰かがこっちにくる。アカテガニは「くそっ」といいながら岩陰にかくれた。僕も慌ててキノコの傘の下に隠れる。

 

「あ、キノコだ」

 

人間の子どもはあっという間にキノコを根こそぎもぎ取った。そしてすぐさま興味を失い、そのキノコを捨てた。

 

僕たち小さなものは大きなものには逆らえない。小さなものと大きなもの間にはルールなんてない。情なんてものもあるはずがない。一方的に破壊された小さいものはただただ我慢するしかない。僕たちは小さすぎて涙も出やしない。潰されても悲しくないように無感情で生きるのが僕らの世界だ。