ミニマム コラム

執着せず。最低限のモノで。日常の共感。

オカヤドカリの好物は生ハムである

オカヤドカリ

うちには同居人がいる。正確には同居オカヤドカリだ。飼い始めたのは確か七、八年ほど前。全部で六匹いた。最もお気に入りだった赤いオカヤドカリは飼い始めてすぐに脱走した。ヤドカリが山の中で脱走してどうするのだろうか。寒さに弱い彼らだから、その冬は超えられなかったはずだ。別の一匹は脱皮に失敗して星になった。同様の理由で他の三匹も星になった。一皮むけて成長しようという彼らの高い志は現実のものにはならなかった。

 

その厳しい現実を乗り越えて生き残っているのは二匹。オスだかメスだかよくわからないがふたりは仲良し。随分と成長もした。背負っている貝殻まで一緒に成長するわけでないから、大きい貝殻は僕が準備することになる。入手場所は東急ハンズ。一個300円くらいで購入できる。何度か宿変えの瞬間を見たことがあるが、裸のオカヤドカリというのは少し生々しい。あまり見るものじゃないと思う。まあ、着替えているところを覗く方が悪いよね。「見てんじゃないわよ」って思われても仕方がないよね。貝殻はペイントされているものも売られている。貝殻に可愛らしいペイントがされているのだ。

 

ペイント

 

「それを背負って欲しいんだけど」

 

可愛らしいそれを背負ってくれるように何度かオカヤドカリさんにお願いしたことがあるのだけれど、どうもお気に召さないみたい。少し様子を伺っては宿替えを諦める。

 

「こんなペンキくさい家に住めるかよ」

 

オカヤドカリもシックハウス症候群になるのを恐れているようだ。自然素材の家がいいんだって。

 

そんなこんなを乗り越えてきたオカヤドカリ。冬は寒いので砂の中に潜る。そしてしばらく姿を見せない。だから水槽の中はガランとしている。暖かくなるとようやく姿を見せる。

 

「あ、どうも。お久しぶりです」

 

僕はちゃんと挨拶をしてやるのに臆病なオカヤドカリはすぐに殻に閉じこもる。人見知りも甚だしい。一匹はそうやって姿を見せたのだが、もう一匹の姿が見えない。まだ冬だと思っているのか。それとも脱皮に失敗して星になったか。心配だからといって砂を掘り返すわけにもいかない。ただただ安否を心配するだけ。

 

「あの子は無事なんでしょうか?もしや…。」

 

なんてことを考えて、ふと水槽を覗くと、しれっとした顔で砂から出てきていやがる。心配して損したわ。まあ、久しぶりのご対面だ。ほれ、君らの好きな生ハムをご馳走してやるよ。

 

オカヤドカリ

 

二人仲良く食事をする。こんな時は写真を撮ろうと近づいても宿に隠れることはない。オカヤドカリも食欲には勝てないみたい。