ミニマム コラム

執着せず。最低限のモノで。日常の共感。

天使の正体

天使

「大きく翼を広げた何かみたいだなぁ」

 

僕は秋の空を見上げてそう思った。最初は鳥だと感じた。次に見えたのは天使。だってさ、天使に見えた方がかっこいいじゃない?鳥じゃ平凡だもの。

 

大きく羽を広げて、どこかに飛んでゆく天使。僕はこの大きな天使に守られているような気がした。大きなものに守られているという安心感。その安心感には何の保証もないのだけれど。

 

子どもにとって親という存在はとても大きな安心感だ。低い位置から親の顔を見上げる。そこに親の顔が見えるだけで安心する。その距離は僕が成長するにつれて段々と縮まる。縮まるにつれて、その気持ちは別のものに変わる。

 

「うっとおしいなぁ、目の前に親の顔があるだなんて」

 

成長してしまった僕は、同じ位置にある自分の親の顔をみてそう思う。距離が近すぎるものだから、自らその距離をとろうとする。一歩一歩と親から遠ざかる。親は心配そうに僕に一歩近づく。

 

「こっちにくるんじゃねぇよ」

 

そんな言葉をぶつけても、笑顔でいる親。「あなたが元気ならそれでいいわ」と遠くを眺める親の顔は少しさみしそう。たくましく育ったことの安心感とさみしさと。

 

何年か経って遠くから親の姿をみてこう思う。

 

「あれ?僕の親ってこんなに小さかったっけ?」

 

いつの間にか成長していた僕。ひとりで大きくなった気になっていた。僕をここまで育ててくれたのは誰だっけ?感謝する気持ちが追いつかない。そこまで成長しきれていない。

 

少しずつ親に近づく。近づけば近づくほど、親は小さくなったように感じる。広かったはずの背中。あのとき、僕は寝たふりをしていたんだ。その大きな背中におぶられていることが心地よかったから。僕のすべてを安心して委ねていた。

 

親より少しだけ高い位置から見下ろすことになった僕は思うんだ。今度は僕が守ってあげる番だって。でもね、そう思うのが遅すぎた。もらったぶんだけ、それを返してあげることができなかった。そんなに急ぐことはなかったのにさ。最後は小さく小さくなって、白い壺の中に納まりきるくらいに小さくなった。

 

僕は今でも守られている気がする。あなたたちがそこにいないのはわかっているけど、せめて毎日、僕は手を合わせるから。今となってはそれくらいしかできないから。