ミニマム コラム

執着せず。最低限のモノで。日常の共感。

自分のいる場所

防波堤

朝のウォーキングコースには防波堤がある。左側は壁になっていて、僕が邪魔するまでは鳥たちがそこでたたずんでいる。右側はフラットになっているのでふらふら歩いていると海に落ちる。帰り道は左側がフラットになるので、やはりふらふらしていると海に落ちる。僕がどっちを向いて歩こうが、どちらか一方がフラットであることには変わりないので、ボケッとしていると海に落ちてしまう。

 

今朝は引き潮だったようで水面が低かった。僕はいつものように防波堤を歩くのだが、引き潮だと、その防波堤がいつもより高い位置に感じられる。いつもと同じはずなのに。まわりが低いっていうだけで僕は高いところにいるような気がする。僕は高所恐怖症だから、その少しの高さがこわい。低いところをみていると、そこに吸い込まれそうな感覚に陥るのだ。低いところにいるなにかが僕をおびき寄せる。

 

「お前はそんな高いところにいるような人間じゃないだろう?お前はコチラ側の人間だろう?さあ、くるんだ。こっちにくるんだ」

 

そうなのかもしれない。僕はそちら側の人間なのかもしれない。じっと低いところを見ているとそんな気がしてくる。そしてフラッとそこに吸い込まれそうになる。落ちるのは簡単だ。右足を一歩だけ前に踏み出せばいい。前に進んだつもりが、一歩も前に進んでいないことに気がつくのはまっ逆さまに落ちたあと。僕は勇気をもって前に進んだはずなのに。そんなのは勇気でもなんでもなかった。低いところにいる何者かにおびき寄せられただけだった。僕は海に落ちてびしょ濡れになる。みるみる間に体中の体温が奪われていく。

 

「誰か助けてくれ!」

 

そう叫んでも誰も助けてくれるものなどいやしない。

 

「俺たちにお前を助けてやる力なんてないさ」

 

ウミネコたちはそんな目で僕を見下ろしている。どうしたらいい?どうすれば僕はここから這い上がれる?ロープなどありはしない。助けてくれる舟もいない。目の前にあるのは防波堤の壁だけ。フジツボだらけのその壁を素手でつかみ、血を流しながら昇るしかないのか。落ちるのは簡単。そこから這い上がるのは・・・。

 

僕をこんな場所に引きずり込んだのは誰だ!?ふと海中を覗くと、そこにいる何者かと目が合った。僕をじっと見ている海中の何者か。

 

それは、僕自身だった。