ミニマム コラム

執着せず。最低限のモノで。日常の共感。

映画「鬼畜」の感想

 

鬼畜

鬼畜

松本清張の小説が原作で1957年頃に書かれたものらしい。今回僕が見たのは1978年に映画化されたもの。

 

ストーリー

印刷屋を営む夫(緒形拳)とその妻(岩下志麻)。夫は外に女(小川真由美)を作り三人の子どもを生ませる。しかし、印刷屋の経営が困難になり、女に金を送ることができなくなる。生活に困った女は印刷屋に押しかけ、三人の子どもを置いたまま姿を消す。

 

夫は自分の子どもだから懸命に世話をする。愛人の子どもなどはなから育てる気もない妻。子どもの顔を見るだけで愛人のことを思い出す妻は子どもの存在が邪魔になる。次男は栄養失調の末、衰弱死する。実際には不慮の事故に見せかけた窒息死。残りのふたりも処分するように夫にせまる妻。逆らえない夫は長女、長男を処分する。

 

感想

全編通して艶かしい。必死に生きているということがリアルさを増して伝わってくる。それは時に目を背けたくなるほど。自分の中のなにかをギュッと捕まれているようなそんな感じ。

 

冒頭、小川真由美が「暑い、暑い」と団扇を扇ぐシーンがある。その艶っぽさったら。艶めかしい汗。たったそれだけのシーンがとても印象に残る。

 

一歳の次男が食べ物で悪さをするんだけど、それに腹を立てた妻がこどもの口にご飯を無理やり押し込むシーンがある。それをリアルにやっている。子どもは当然泣き叫ぶ。多分、本当に嫌で泣いている。父親は長男の口に青酸カリ入りのアンパンを無理やり押し込む。結局は未遂に終わる。その妻は近づいてきた次女の頭が臭いと頭から洗剤をぶちまける。「だから、おばちゃんに近づいたらダメだって言ったろ?」としか言わない父親。どれも目を背けたくなるようなシーンだ。

 

父親と長男がふたりで旅行に行くくだりがある。目的は長男を崖から突き落とすため。旅館で父親はビールを飲みながら語る。「俺も小さい頃は大変だったんだ。人間扱いなんてされなかった」と涙をこらえながら語る。語りながら、枝豆を息子の口に持っていき「さぁ、食え」と食べさせる。その表情は本当に愛するものにしか見せないようなやさしい笑顔。今からその息子を殺そうとしているというのに。

 

崖から落とされた長男は松の枝に引っかかり一命をとりとめる。警察は父親が犯人だと確信しているが、息子は頑としてそのことを言わない。父親は逮捕されて息子と再開することになる。

 

「知らない。こんなおじちゃん知らない」

 

それでも息子は父親のせいだとは言わなかった。

 

今の時代にこんな映画を作ろうものなら、すぐにクレームになるだろうし、公開すら怪しいと思う。だけども、僕はこういう映画は必要だと思う。見たくないから目を背けるのではなく、現実を直視する。そこからなにかを感じ取る。それはきっと人間らしい感情で、人間らしさを形成するのに必要なことだと思う。

 

人にはやさしい面もあれば鬼畜な面もある。なにがやさしさでなにが鬼畜か。それを考える機会を奪うことはない。今の時代にこのような映画が作られないのなら、昔の映画を見ればいい。見終わった直後はつらいけど、自分の中に残る映画だった。