ミニマム コラム

執着せず。最低限のモノで。日常の共感。

消しゴム男

消しゴム

「僕は悪くありません。全然悪くありません」と念仏のように唱える消しゴムのような男。黙って消費されるだけ。意思なんてない。他人に頭をこすられ自らをすり減らすことになんの疑問も抱かない。それが僕に与えられた役割ですから。僕は消しゴムですから。そのまま消えてゆくのです。消しゴムとして生まれてきた僕は、この世になにも残さず消えてゆくのです。

 

尖っていた角は丸くなる。丁寧に丁寧に扱われていたはずが、すべての角が丸くなるころにはその扱いは適当になる。ときに必要以上に力を入れられ、意味もなく欠ける。欠けた僕の一部はもはやゴミ同然。それだって立派に消しゴムとしての役割を果たすんだぞ。小さすぎて扱いづらいかもしれないけど、役に立つんだぞ。そんな僕の声は小さすぎて届かない。小さすぎて言葉にすらなっていない。いや、そもそも僕は叫んでいたのか?怯えて声にすらなってなかったのではないか?

 

僕はいびつに形をかえていく。次第に反対側の角も丸くなる。丸くなるのは僕の意思ではない。他者の力だ。強制だ。僕が小さくなると大きすぎるカバーは強制的にハサミでちょん切られる。邪魔だよ、そのカバーは。お前にはこのくらいの大きさがちょうどいいのさ。僕の全てが小さくなる。そのうちカバーは破れ、その役割を果たさなくなる。僕は丸裸になる。寒いよ。寒くて震える。

 

かくして長細かった僕はまん丸になった。

 

「新しい消しゴム買ってきたからお前はもういいや」

 

待てやい。僕はまだ使えるぞ。立派な消しゴムだぞ。見た目が変わったからといって僕自身はなにも変わってないぞ。僕は役立たずなんかじゃない。僕のことを認めないやつが悪いんだ。僕は悪くない。全然悪くない

 

僕は今、机の下の隅っこでホコリを被っている。誰からもその存在すら忘れられている。