ミニマム コラム

執着せず。最低限のモノで。日常の共感。

彼が飛び込んだその先

夢

「アズくん、あーっそぼ?」

 

今夜の僕の夢はそうしてはじまった。遊びにきたのは近所の幼なじみ。幼稚園から高校までずっと一緒だったやつ。

 

夢の中の僕らは山をかけめぐった。それだけが楽しい子ども時代。その山と学校と自宅と半径三キロメートルが僕らの全てだった。無性に楽しかった。

 

「子猫の様子見にいこうよ?」

 

道端で拾った子猫。うちじゃ飼えないと言われた。彼のうちでも飼えないといわれた。しかたがないから僕たちの秘密基地に子猫をかくまうことにした。そこに子猫がじっとしている保証なんてないのに。絶対にそこにいてくれるはず。理由なき確信が僕らにはあった。

 

「いや、見に行かない」

 

彼はそう断った。

 

「そっか、じゃ行かない」

 

僕は素直に彼の意見に従った。すると「やっぱり行こうよ」と僕を羽交い絞めにしながら言う。ほら、やっぱ見に行きたかったんじゃん。心配だったんじゃん。

 

僕の夢はいったん休憩に入る。子猫がどうだったのか。わからないままに。そもそも本当に道端に子猫は捨てられていたのか。僕らはそれを心配したのか。僕らの秘密基地はあったのか。

 

幼なじみだった彼は早くに結婚した。彼ににつかわしくない金髪の女と結婚した。年収の三倍以上もするような真っ赤な車を買った。数年後、彼は会社へ通えなくなったと彼の母親から聞いた。

 

車

 

夢の第二幕。僕らは相変わらず山の中にいた。半径三キロメートルの日常。そこには竹がたくさん生えていた。伐採したはずなのに。大人になった僕がきれいに伐採したはずなのに。

 

「タケノコ持って帰りなよ」

 

僕は彼にそう言った。さぁ、タケノコを掘るぞ!坂道をあがっていく。たどり着いたその先に見えるのは防波堤。海を挟んで工場が見える。ここから先は行っちゃいけないんだ。子どもの僕はそう思った。しかし、幼なじみの彼は唐突に走り出した。防波堤から勢いよくジャンプしその先に飛び込んだ。

 

「大丈夫かよ」

 

彼が飛び込んだ海面は高さ数十メートルのはるか下。防波堤は断崖絶壁のようになっていた。彼はそれを知っていた。知っていて飛び込んだ。

 

「お前もこいよ」

 

そう聞こえた気がした。僕には無理だ。そこに飛び込むことなんてできない。豆粒のように見える幼なじみを上から見下ろしながら僕はそう思った。僕らの冒険はそこで終わった。

 

彼が飛び込んだその先にはいったいなにがあったのだろうか?