ミニマム コラム

執着せず。最低限のモノで。日常の共感。

間違えて多くもらったおつりを返した理由

おつり

先日、入ったパン屋さんでの話だ。

 

僕はパン屋さんが好きだ。パンのにおい。いろんな種類のパンに囲まれる。トレイとトングを持って広くない店内をまわる。どれもこれも欲しくなるが、いちどに食べられる量は決まっている。多くても3つまで。厳選するのも楽しい。「遠足のおやつは300円まで」みたいなね。

 

僕はその日疲れていたのだろうか。甘いパンが食べたかった。いつもであれば、ひとつくらいは惣菜パンを選択するのだが、その日は甘そうなパンを2つほど。ひとつはかぼちゃのタネが乗っかったパンプキンケーキを選んだ。

 

「お会計は730円になります」

 

わ、しまった。一万円札しかない。「すみませんがこれで」と一万円札と30円を渡す。「いえいえ、大丈夫ですよ」と、まずは大きい方から九千円を受け取る。そして小銭を受け取る。店内には僕とは別にお客さんがふたり。それだけでいっぱいの店内だったので僕はそそくさと店を出た。

 

僕は渡された小銭を眺めていた。右手には700円。730円の買い物をして100,30円を渡したのだから、お釣りは、えーっと、9,300円だよね。そう、僕は多くお釣りを受け取っていたのだ。なんども計算してみるが、間違いなく多く受け取っている。黙っていてもわからないだろうが、多くは受け取れない。僕は狭い店内に戻った。

 

店員さんは「あれ?」みたいな顔をしている。「お釣り間違えてますね」と伝えると「9,300円ですよね」との返事。計算自体は間違えてないよう。僕は手のひらを広げてみせた。僕の手の中には700円あるんです。「あ!」といって間違いに気がついたよう。

 

常連らしき男性は「じゃ、その400円はわしのもんや」と冗談めかしていう。「わざわざ親切にすみません」と店員さん。「こんなことははじめてです」とも。僕は決していいことをしたわけでも、親切をしたわけでもない。間違いを正しただけだ。それなのに店内は笑顔につつまれた。なんだか気分がいい。

 

おつりを多く受け取ることもできたのだがそれを僕はしなかった。なぜか?後味が悪いのだ。

 

以前にラーメン屋でラーメンとビールを頼んだことがある。いかにもダメそうな店員はビール代を会計しなかった。その時僕は「ラッキー」と思い、気が付かないふりをしてラーメン屋をあとにした。店員が追いかけてこないように足早で店から遠ざかった。

 

でも、それがどうにも後味が悪いのだ。きっと、そのダメ店員は怒られたに違いない。はじめての間違いということでもないだろう。「また、計算間違えやがって!今度ミスしたらお前はクビだからな!」そういう後日談があったかどうかは知らないが、怒られたには違いない。たった500円くらいのことでダメ店員は怒られるし、店は損するし、オーナーは血圧があがる。僕自身も後味が悪い。僕が受けた棚ぼたは誰もシアワセにしていないのだ。

 

しかし、今回はどうだろう。たった400円でパン屋の中にいた四人は笑顔になった。この話を僕以外の三人はどこかでするに違いない。「今時、そんな親切な人がいるんだねぇ」「まだまだ捨てたものじゃないね」そんな後日談があったかどうかは知らないが、僕は勝手にそう想像して英雄になった気分でいた。たった400円で。