ミニマム コラム

執着せず。最低限のモノで。日常の共感。

オカヤドカリ物語

オカヤドカリ

「孤独死だ」瞬時にそう思った。すみっこでうなだれるようにして死んでいた。彼の親友が死んだのはわずか三ヶ月前。それから彼はひとりぼっちだった。耐え切れなかったのだ、そのさみしさに。孤独に。

 

 

僕らオカヤドカリは沖縄の出身。「こいつらは金になる」と欲に目がくらんだ人間により無理やり本土に連れられてきた。大勢で沖縄の砂浜で遊んでいるところをふいに網ですくわれたのだ。なすすべがなかった。相手はあまりにも巨大だった。人間。この世でもっともおそろしく野蛮な生き物だ。

 

僕は必死に殻に閉じこもった。閉じこもったところでどうなるものでもないが、それしか身を守る方法がなかった。ゆられる。どこかへ運ばれるようだ。ガチャガチャと聞こえるのは貝殻がぶつかり合う音。大勢の仲間が被害にあったらしい。すこし安心する。

 

気が付くと砂浜の上。とても明るい。やったぞ、ふたたび沖縄に戻ってこれたんだ。あれは悪い夢だったのだ。と、その瞬間、こちらを見る大きな目が。人間のこどもだ。ここは沖縄などではなかった。どこかの売り場らしい。

 

この狭いガラスケースの中にいる大勢の仲間はこの状況をすでに諦めているらしい。どうあがいたって脱出は不可能。手段はただひとつ。誰かに買われることだ。

 

「こいつと、こいつにしよう」

 

僕はひょいと持ち上げられた。どうやら僕は買われたらしい。250円。これが僕につけられた値段だ。高いか安いかは知らない。人間の価値観なんていい加減なものだ。

 

僕は五匹の仲間とともに買われた。用意された家はふたつ。どうやら2グループにわけられるらしい。そこにはガジュマルの木があった。気が利くじゃないか。僕らはこれが大好物なんだ。

 

僕らはガジュマルの葉をあっという間に食べつくした。その根元も掘りあげてしまったものだから、そのうちに木も枯れた。代わりのガジュマルは用意されなかった。食事はもっぱらポップコーン。僕たちオカヤドカリはポップコーンが大好物だという情報をどこからか得てきたのだろう。バカのひとつ覚えみたいにそればかりを与えられる。そろそろ別のものが食いたい。

 

そのうち人間は僕たちに見向きもしなかった。その状況は好都合だったが、食べるものがないのには苦労した。干からびたニンジンなんて食う気がしない。それでもなんとか生き延びた。

 

その間に仲間はどんどん減っていった。脱出したアイツは元気にしているだろうか。仲間の多くは脱皮に失敗し、星となった。そうして僕はひとりになった。さみしい。さみしくて耐えられない。仲間がいないことがこんなにつらいだなんて。

 

そして僕も星となった。 

 

できればもう一度、沖縄の砂浜を駆け巡りたかった。大勢の仲間たちと。